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読者体験手記
隣家の介護殺人に気づかず
ケアマネジャーとしての"悔悟"
在宅介護に関わって20余年、ケアマネジャー歴5年目の山口さん。
虐待や介護放棄に気がついても介入することの難しさにいつも直面してきたと言います。
そんな折、ある新聞記事に目が釘付けに・・・・・・。
山口 愛子 さん  (福井県 48歳 仮名)
自身も経験した、
実母への殺意


  このところ、新聞で見ない日はないほどの同居家族による「介護殺人」。介護者のせっぱ詰まった心情を思いやる時、私の胸には11年前の苦い思い出がよみがえります。

  今は亡き母を介護していた頃の、殺したくなるほどの葛藤。 認知症による激しい毒舌に、「母さんを一番大事にしてきた私がどうして責められるの!?」と体が震えました。 徘徊やおむつ交換のためというよりも、自分自身のストレスで毎晩眠れませんでした。 とはいっても、施設入所の決断にも踏み切れず、3度目の入院でそのまま帰らぬ人となった時は、正直いってホッとする私がいました。

  そのためか、在宅ケアマネジャーとなった今、担当するお年寄り本人以上に、その家族の気持ちを思いやってしまいます。

  「介護殺人」を報道する記事は、お決まりのように「なぜこれほどになるまで、地域は気づけなかったのか」「介護を抱えこんではいけない。相談機関にSOSを」と正論で記事を締めくくっています。しかし、現実はそんな簡単なものじゃないと言いたいです。

  訪問しても本人の様子を見せてもらえずに門前払い。気づいても気づかぬふりをする、ご近所。殺人・心中予備群のようなケースをいくつも見てきました。

  私の担当地域は過疎化が進む郊外の住宅地。老老介護、特に認知症介護家庭の疲弊を防ぐ「見守りネットワーク」を、ケアマネジャーと保健師の仲間で内々に検討していた矢先、その事件は起こったのです。

灯台もと暗し・・・・・・

  「47歳の息子、介護に疲れ、寝たきりの母を殺害」。ああ今日もまた・・・・・・と、職場で新聞の見出しを眺めていて、次の瞬間、私は凍りつきました。 その事件の現場は見覚えのある自分の町内でした。 その直後、「見守りネットワーク」の仲間から電話があり、自分が住む集合住宅内の出来事だとわかりました。 警察などに遭遇しませんでしたが、今日もその窓の前を通って出勤してきたはずだったのに。 一度も会ったことのない隣人。そこに疲弊しきった介護家庭があったのです。

  仲間がポツリと一言、「どうして、気がつかなかったのかしら」。 "ケアマネジャーとして"、ではなく"地域の一住民として"の含みをもって・・・・・・。 ネットワーク作りを始めて以降、独居高齢者宅には担当地域にかかわらず訪問していましたが、事件が起こった家は息子と母を含め4人家族で、介護保険を使っていませんでした。 見守りの狭間に落ちる、典型的な家庭だったのかもしれません。

  自分の家の隣でこんな事件が起こるとは、介護職、いや一般の人でも、どれだけ想像できるでしょうか?しかし、介護殺人は一夜にして衝動的に起こるのではないはず。わが家の事情にかまけて近隣の家庭に関心を失っている、すべての人の隣で起こりつつある時代なのだと思うのです。

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「読者体験手記」は、『かいごの学校』(現在、休刊中)より掲載したものです。