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     管理栄養士・栄養士のみなさんが日ごろの業務のなかで悩んでいることについて、ベテラン管理栄養士からアドバイスをしていただきます。

    食事を拒否する患者さんへの経口摂取について・・・
    摂食・嚥下障害の患者さんに合わせた食形態で提供していますが、食べたときにむせた経験から「食べたくない」と拒否されます。少量でも口から食べていただきたいのですが、無理に食べさせることが幸せにつながるのか、悩んでいます。(療養病院管理栄養士)
     

     この患者さまは食べてむせてしまったときがさぞつらく、苦しかったのでしょうね。まずは、患者さまから、この「負のイメージを」なくしてあげることから始めましょう。

     この場合、十分な栄養は3食とも胃ろうから摂取していただくことが前提だと思います。無理して食べていただくことはせず、「食事は楽しい」と思えるように工夫することが先。それには、ほかの方が食べているところを見ていただくのが一番です。

     この患者さまは「食べたくない」「イヤだ」と意思を示しているのですから、「食べたい」という気持ちも表現できるはずです。「私はね、お腹が空いたときに食べたいものは、お粥と梅干しなんですよ。○○さんもお粥と梅干しですか?」と、自分の話をしながら声をかけます。誘導尋問です。「うん、そうだね」と言えば、お粥と梅干しをお出ししてみればいいのです。

     男性には「冷奴」を提案してみたり、女性には「私はプリンが好きなの。○○さんは食べたくない?」という具合に。「食べたい」と口では言わなくても、うなずいたり首を横にふったりするかもしれません。うなずけない方には、「『うん』だったら1回まばたきして、『イヤ』なら2回まばたきしてね」と伝えて、表現してもらっています。

     ご相談者の考え方に、一つだけ間違いがあります。「患者さんに合わせた食形態を提供している」というところです。

     栄養士をはじめ、医療者側からみて「患者さんに合わせて」いるのであって、患者さまは「自分に合っている」とは思っていないのではないでしょうか? 確かに嚥下障害の状態からみれば、医学的に正しい食形態なのだと思います。でも、「これが正しい食事」と言われて、今日のお昼からあなたは「魚のミキサー食」を食べられますか? 自分に置き換えてみればわかりますよね。「私が今、食べたいもの」とは違うはずです。

     先ほどの誘導尋問で、「冷奴」が食べたいとおっしゃれば、それをお出ししてみましょう。それには、もちろんドクターの許可と看護師の協力が必要です。そして、必ずお昼に実施することです。「もしも」の場合を考えて、医師も看護師もレントゲン技師もそろっているお昼に食べていただくのです。吸引機を用意するなど、準備もぬかりなく。ちなみに、私の必需品は「カメラ」です。久しぶりにお食事をされている様子をデジカメで撮影します。「○○さんがお食事を召し上がったら、息子さんが喜びますね~」と話しながら撮らせていただきます。「もう食べられない」と思っていたご家族も、写真を見れば喜んでくださり、それが患者さまの元気につながります。

     食堂などがない場合には、行事の日がいいかもしれません。ほかの患者さまや職員が楽しそうな雰囲気で食事を囲んでいれば、楽しい気持ちがよみがえってくると思います。患者さまにとって「口から食べること」だけが幸せなのではなく、少量でも「食べたいものを食べること」が幸せなのです。私たちと同じように。

    (回答者:上野ゆん子さん 医療法人京浜会京浜病院・新京浜病院 栄養部長)