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医療危機の打開に向けて今必要とされるのは、医療と経営の両面の質を理解したうえで、病院全体をマネジメントできる人材だ。 今回、『医療経営士テキストシリーズ』発刊を機に、シリーズ総監修者である川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授と、全国有数の急性期病院の経営者である相澤孝夫・社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長・院長に、 医療経営の現場に求められる人材像とその育成に向けた課題について語り合ってもらった。 |
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―本日は病院をマネジメントできる人材像やその教育を中心にお話し願いたいと思います。まず、病院に経営が根づいていない要因について、どのように考えられておられますか。 川渕 大学卒業後に民間病院に入職しましたが、そこで感じたのは、医療を経営の視点からマネジメントできる人材がほとんどいなかったことです。 もっとも、その根底には病院関係者が実践的なマネジメントを学べる環境がなかったことも大きいと思います。 相澤 最大の要因は、医療界に「行政の指示にだけ従っていればいい」という意識が蔓延していることだと思っています。 実際、10年ほど前から「医療は護送船団方式で運営されている」といった指摘を受けてきましたが、いまだに状況は変わっていません。 自ら経営努力を行うよりも、「お上の言うとおりにしていれば何とかしてもらえる」という文化ができあがっているように思います。 現在の医療崩壊は医師不足に原因のすべてを押しつけていますが、誤解を恐れずに言うと、病院が潰れるのは"経営"ができていないからでしょう。 しかし、医療関係者には理解してもらえません。 川渕 関心を持つのは診療報酬の行方ばかりで、中医協で決まったことは金科玉条のごとく守る、困った時は政治が何とかしてくれると他人任せ。 一方、制度をつくる側は、つくった後のことは知らないといった無責任主義が日本の医療界を覆っているように感じますね。 相澤 辞書で「経営」という言葉を引くと、「方針を定め、組織を整えて、目的を達成するよう持続的に事を行うこと」とあります。 つまり最初にビジョンやミッションがなければ始まらないわけです。 ミッションとは「自分たちの病院では何をするのか」という具体的な使命です。 ビジョンは職員の行動および判断の基準となる憲法や法律のようなもので、本来これがないと動くことができません。 不思議なことにミッションやビジョンはないにもかかわらず、事業計画だけはどこの病院にもあります。 資源を最大限に活用しながら持続的な事業を通じて志を達成する、という経営が持つ本来の意味を理解していない医療者が多いことが、医療界をおかしくしてきた原因ではないかと考えています。 |
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川渕
確かに医療界は、「経営=収益を上げること」と勘違いしている人が圧倒的に多いですね。
アカデミックな場にいる立場から、長年、こうした状況が続いてきたことには忸(じくじ)怩たる思いを抱いていました。
そこで、何とか病院マネジメントができる「人財」を輩出できないものかと考え、病院経営に必要な知識やスキルを体系的に学べる『医療経営士テキストシリーズ』の総監修にあたっています。
相澤先生は、病院マネジメントを行ううえで、どのような人材が必要だとお考えですか。 相澤 病院は診療や看護、薬剤といった、さまざまな部門が複雑に絡み合っている組織です。 こうした特有の状況を含めた病院全体をマクロ的に捉えることができ、専門知識を持って各部門が交錯している部分などを調整し効率的に動かせる人材です。 具体的にはマーケティングやコミュニケーションなどといった経営の専門知識と、病院組織を含めた医療の仕組みや各部門の特徴および置かれた現状といった医療現場の大枠を理解した人材です。 『医療経営士テキストシリーズ』には、こうした現場の問題を反映させながら、診療現場とマネジメントの両方を学べ、両者のバランスを取る能力が身につくような実践的な内容を盛り込んでほしいですね。 医療と企業が大きく違うのは生命や健康という、患者さんの一生を左右するかけがえのないものに関わっていることにあります。 そのため、少なくとも医療の質を高めようという想いがなければなりません。 病院のマネジメントに携わる人には、この部分の理解が不可欠です。 医療の質を担保する診療を中心とした狭義のマネジメントと経営の質にかかわる広義のマネジメント、両方のバランスを均等に取れる人間が医療界に増えれば、日本の医療は大きく変わると思います。 川渕 病院団体でも経営人材育成を始めているところはあります。こうした講座に職員を参加させていますか。 相澤 事務職員を参加させています。参加することで、経営に関する専門知識を得られると同時に、講座修了後も悩みの相談や情報交換を行える人脈をつくれることも大きいと感じます。 川渕 病院経営は実践科学なので、理論とともにプラクティカルな学習も必要だということですね。 テキストの編著者には、双方向のコミュニケーションや人脈づくりにもなるような研究会といった「場」を設置してもらいたいと考えています。 相澤 経験した事柄を理論的な裏づけに基づいて振り返ることで、あらためて「こうすべきであった」と検証し、ノウハウを蓄積していくことができると考えています。 そのため原理原則を学んだあと、ケーススタディを行うフォローアップ研修といったものも行うことが理想的ではないでしょうか。 1年に1回集まって実際にあった事例をさまざまな視点から客観的に分析し、検証していくとおもしろいと思いますよ。 情報収集と分析、それに基づいた評価、決定、計画立案、さらに実行できるような人材を育てる必要があると思います。 |
| ※『フェイズ・スリー』2010年3月号より抜粋 |
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かわぶち・こういち 1959年生まれ。83年、一橋大学商学部卒業後、民間病院を経て86年、シカゴ大学経営大学院でMBA取得。 国立医療・病院管理研究所、国立社会保障・人口問題研究所勤務、日本福祉大学経済学部教授、日医総研主席研究員などを経て、東京医科歯科大学大学院教授、経済産業研究所ファカルティ・フェロー(現職)。 主な研究テーマは医療経済、医療政策など。 『第五次医療法改正のポイントと対応戦略60』『病院の品格』(日本医療企画)、『医療改革~痛みを感じない制度設計を~』(東洋経済新報社)など著書多数。 |
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あいざわ・たかお 1947年生まれ。73年、東京慈恵会医科大学卒業後、信州大学医学部第二内科入局。81年、特定医療法人慈泉会相澤病院副院長。88年、社会福祉法人恵清会理事長に就任。94年、特定医療法人慈泉会理事長、相澤病院院長に就任。 2008年に社会医療法人認定を受け、「社会医療法人財団慈泉会相澤病院」へと名称変更。 現在、長野県病院協議会常務理事、日本病院会理事、全国病院経営管理学会副会長などを務める |









