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「メディカルマネジメント・コーチング」講座
 
第12回 他者満足
今回のスキル  【他者満足】
              フィードバックを繰り返し自分自身を変える
              相手を満足させないプレゼンテーションは自己満足
              コミュニケーションは性格ではなく変えられるスキル
フィードバック能力

   もし教授から教室員に「この仕事はキミに任せるから、よろしく頼む」、こんな言葉をかけたとしたらどうでしょう。期待されていると積極的に取り組む人がいる反面、プレッシャーを感じ委縮してしまう人もいるかもしれません。人の性格ややる気のポイントは、本当に人それぞれです。1対1の場合は別ですが、1対多数の教室員を相手に指導していかなくてはならない教授という立場は、本当に難しいものがあります。


   私も若いころより人生経験を積んでいるので、教室員と話をしているうちに「彼の頭は今こういう状況にあるな」とか「今このへんで迷っているのかな」など、自然に見えてくることもあります。しかしその解釈は絶対ではないし、いろいろなタイプの教室員がいますから、「何を考えているのかまったくわからない」なんてこともよくあります。

   人それぞれ重視しているものや目的意識は違いますから、それぞれに合わせたやり方で指導できればいいのですが、そんな余裕はないし、また「この人はこんな人だからこのパターンで」というような分析対応は、私はあまり好きではありません。私はそういった過去の経験に頼らず、部下に接するときは常に頭のなかで、「今の説明で彼に納得してもらえただろうか」とか「この方法は彼に合っているのか」と、フィードバックして考えるようにしています。いつも問題意識を持ちながら、フィードバックを繰り返していくことで、相手の気持ちを汲むことや、空気を読むということが自然に身についていくと思います。状況の「観察」と「分析」というものを重ねていくと、ある程度のパターンが読めることがあります。また、自分が苦しい状況にあっても、解決策が見えることもあります。

   部下に気を遣わなくてもいいのでは? と思われる方もいるかもしれません。しかし部下の仕事へのやる気を高めるには、上司のメンタル面のフォローが必要不可欠です。上司の少しの気遣いや心配りで、仕事への取り組み方も大きく変わるものです。また、それがチームの円滑化にもつながるのです。

プレゼンテーション能力

   プレゼンテーションには、限られた時間のなかで自分の考えをどううまく表現するかというスキルが必要になります。自分の考えを相手に伝えるためには、「内容構成力」や「情報・知識伝達力」、また相手を納得させるためには、「コミュニケーション力」が求められます。ともに相手があるから成立するもので、一人でスピーチしていても意味がないものなのです。

   先日、朝の症例カンファレンス発表のときに、ボソボソと小さな声で発表している学生たちに対して「自分はそれでよいと思っているかもしれないけれど、他の人にはよく聞こえていないから理解できないよ。相手に理解してもらえないプレゼンテーションには意味があるのかな?」と注意しました。また、ある学会に行ったとき、発表していた人に対しても「自分がわかっているから、みんなもわかるだろうという視点に立って発表しているなぁ」、「単に発表したという自己満足じゃないかな?」という感想を持ちました。自分だけがよいと思っていても、それで相手が満足しているのでしょうか?

   朝のカンファレンスにしても学会の発表にしても、自分だけがわかっていても相手の理解が得られないということは、プレゼンテーションの必要条件を満たしたことにはならないのです。自分が誰を相手にして何をするのかという目的からすると、それぞれの人が理解できた、満足できたというものでなければ、そのプレゼンテーションには意味がないのです。プレゼンテーションはコミュニケーションの一つです。

コミュニケーション能力

   普段仕事をしていて一番よく使うコミュニケーション術といえば、会話でしょう。特に病気を患っている患者さんとの会話は、気をつけなくてはいけないことがたくさんあります。たとえば、手術をする予定の患者さんがいるとします。病気というだけで不安なのに、症状についてや手術方法などの説明が十分でなければ不安が倍増することになります。また、手術後の説明もたいへん重要です。そんなとき、医師が治療してやるんだという威圧的な態度をとったら、患者さんは聞きたいことも聞けず、不満が残ります。「自分は病気を治しているからいいと思っている」。これはあくまでも自己満足であって、第三者が満足するということではないのです。対象である患者さんが、満足しなくては意味がありません。医師には、学会で他の医師に対するプレゼンテーション能力と患者さんに対するプレゼンテーション能力が必要です。

   また会話は「聞く」ことと「話す」ことによって成り立ちます。「聞く」ということは、相手が話していることを言葉通り理解することはもちろんですが、相手が口に出していない感情や思いを汲み取ることも必要とされます。「話す」といっても、一方的に自分の話をするのではなく、相手が強く求めるものを正確に理解し、相手が求めていることを「わかりやすい言葉で話す」ということが必要です。

   私はよく研修医に「コミュニケーションというのは性格ではないんだ。スキルなんだから自分の殻を破って練習しなさい」といったアプローチをしています。また、「キミの患者さんとのやりとりはボソボソと小さな声で、相手は満足すると思うかい?どのようにしたら、患者さんが満足できるコミュニケーションができると思う?」などといったアドバイスもします。


   3つの能力について、私個人の見解や取っている対処法を述べてみました。学生や若い教室員たちもこれから臨床や学会の場に出ると、それぞれが自分自身で解決していかなければならないことなのです。医師という職業でプロとして生きるならば、これらの能力を駆使して相手(患者さん・看護師・スタッフ等々)を満足させることが必須条件なのです。
▼ 「第1回 7つのお約束と10のスキル」
▼ 「第2回 コーチングをマネジメントに活用しよう」
▼ 「第3回 理想的な環境をつくる」
▼ 「第4回 聞く? 聴く? 訊く?」
▼ 「第5回 目標の明確化から達成感まで」
▼ 「第6回 コミュニケーションは人間関係構築の柱」
▼ 「第7回 良好なコミットメント」
▼ 「第8回 「迷い」に対するアプローチ」
▼ 「第9回 相手の共感を得る行動」
▼ 「第10回 プライド -学生編-」
▼ 「第11回 プライド -指導者編-」
▼ 「第12回 他者満足」
▼ 「第13回 展望」
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